第2回シンポジウム実施報告

「地域における視覚障害児・者移動支援のあり方〜地域から考える福祉のまちづくり〜」シンポジウム実施報告

平成22年11月2日(火)、東武ホテルレバント東京4F「錦」において、「地域における視覚障害児・者移動支援のあり方〜地域から考える福祉のまちづくり〜」シンポジウムが開催されました。

当日は約100名の参加を得て、地域における視覚障害児・者移動支援のあり方について、自治体や視覚障害者協会での現状が報告されました。また、パネルディスカッションでは意見交換が活発に行われ、盛会のうちに幕を閉じました。

基調講演1
横浜市健康福祉局障害福祉部障害福祉課 担当係長 佐渡美佐子 氏
「横浜市における視覚障害児・者移動支援実施状況と課題について」

 横浜市における移動支援の施策は大きく2つに分かれており、自立支援法に基づく障害福祉サービスと、市町村事業に位置づけられている地域生活支援事業に分類できることが述べられた。また、そのほかにも、福祉特別乗車券・福祉タクシー券・施設等通所者交通費助成・障害児通学支援・ハンディキャブ運行を実施していると報告された。
  現在、横浜市では「いつでもどこでも移動できるために〜総合的な移動支援の再構築〜」と目標を掲げ、移動支援再構築プロジェクトとして当事者や福祉施設の方とともに検討会をつくり移動支援について議論しているところであり、移動支援施策全体について、障害当事者の方々とだけではなく、行政の中でも高齢者・難病者の部門や都市整備の部門と連携をして、障害者施策という枠組みを超えた形での議論を深めて行く必要があると述べられた。

基調講演2
京都府視覚障害者協会 事務局次長 高間恵子 氏
「移動支援事業者から見た課題と今後の期待〜京視協ガイドヘルプステーションに関わって〜」

 京視協ガイドヘルプステーションの設立後の経緯と、現在の施設の概要が報告された。 その中で、利用者のニーズを把握するために、利用者の苦情や要望を明らかにし、行政の施策として対応ができないことや事業所として対応ができないことなどにより、やむを得ず作った事業所の基準などで利用者の要望を押し殺してしまわないよう、当事者団体として努力をしていることが明らかにされた。
 また、新規の利用契約が日常的にある中で、新規の利用者に対しては契約時に訪問をして、介護保険適用者であればケアマネージャやホームヘルパーとの連携をはかる等の対策をとっていることが述べられた。
 また、ガイドヘルプ制度を知らない視覚障害者が多くいると言う課題があり、より多くの視覚障害者にガイドヘルプの制度の周知を行い、事業者も利用者を増やすための努力を行う必要があると野認識が示された。また、今後の課題として全国統一のガイドヘルプの基準を作り、視覚障害者がガイドヘルプを受けやすい環境を整備する必要があると述べられた。

【パネルディスカッション】
「視覚障害児・者の移動支援サービスの今後について」

コーディネーター
慶應義塾大学教授中野泰志氏

パネリスト
国土交通省鉄道局 次長 関口 幸一 氏
全国盲学校PTA連合会 前会長 鶴東 光子 氏
和洋女子大学 教授 坂本 洋一 氏
横浜市健康福祉局障害福祉部障害福祉課 担当係長 佐渡 美佐子 氏
京都府視覚障害者協会 事務局次長 高間 恵子 氏
日本盲人会連合 鈴木 孝幸 氏

パネリスト講演1
国土交通省鉄道局 次長 関口幸一 氏
「福祉交通について」

  現在、国土交通省では交通基本法を制定のための検討が行われており、国民に移動する権利を保障することを最大のポイントとしていることが述べられた。しかし、施策としての実行性に問題があり、予算の問題とともに、バリアフリー・移動支援の体制を作る必要があり、こうした問題が解決されなければ、移動する権利の保障を法律に書くことは困難と思われますとの認識が示された。
 また、移動支援を道路運送法の面から見ると「許可事業」「登録運送」「許可、登録不要の形態」の3種に分類することができ、その中でも「登録運送」について、福祉目的・過疎地などで公共交通等が不便な場合に認められるもので、市町村の協議会での認可が必要となっているが、協議会の認可を得ることが難しい現状があると報告された。
 また、「許可、登録不要の形態」について、運送の対価としてお金を受け取らない場合には道路交通法の適用外になるということが示され、その例として、2010年9月にファミリーサポートセンターで行われている送迎に対し「道路運送法の適用外である」という通達が出たことが紹介された。しかし、この場合においても自動車で運送をする際の安全の確保について、運転や乗降介助について一定のルール作りが必要だという認識が示された。

パネリスト講演2
全国盲学校PTA連合会 前会長 鶴東光子 氏
「視覚障害児・者の移動支援の課題」

 視覚障害児・者が社会生活で最も困るのは情報収集の障害であるとし、人の得る情報の85%にあたる、目による視覚情報がない視覚障害児・者にとって、社会参加をするためには外出時の支援として移動支援(通学支援・通勤支援)が必要であると述べられた。
 その中で、視覚障害児の通学支援の状況について、自治体ごとの地域差があり、移動支援が利用できないところも多く、また親が送迎しなくてはならない場面があるなど全体として非常に厳しいものとなっていると報告がなされた。また、視覚障害者の通勤支援については、ジョブコーチ支援事業は利用できますが移動支援は受けられない状況であると報告された。
 視覚障害児・者が安心して移動するためには、周囲の理解と支援の元、暮らしやすい街づくりをする必要があると述べられ、そのためには、地域差のある視覚障害児・者の通勤・通学支援を標準化し、視覚障害児・者の障害特性を明確にした上で、それに対応した対応した移動支援を行うことが必要であるとの認識が示された。

その後、パネルディスカッションが行われた。
 パネルディスカッションに先立ち、ガイドヘルプについて、「移動は手段」という考えに立ち移動だけではなく、代筆・代読また移動先での目的の達成の支援を含むものとして定義することが確認された。また、移動支援の課題として、施設入所の視覚障害者への移動支援・移動支援事業者の車の利用・通勤通学の移動支援・ガイドヘルパーの資格の確立・ガイドヘルパーの待遇改善が挙げられ、これらの課題について議論を行うことが確認された。
施設入所の視覚障害者への移動支援については、訓練の一環としての外出時の移動支援は行われているが、一時帰宅の際の、また施設からの通院の際の移動支援において課題があるとの意見があった。これについては、京都府においては自治体との交渉によって施設からの通院が認められていることが報告された。この課題については、様々な障害を纏めて制度を作っているところに矛盾があり、特に視覚障害者に特有の情報提供の問題について考える必要があるとまとめられた。
移動支援事業者の車の利用について、現在、移動支援の移動手段を公共交通機関に限定している自治体が約6割あり、移動支援制度の仕組みが都市型となっている。政省令を作り全国統一の運営基準を作成する際には移動手段について明記することが必要である。また、車を利用した移動支援の成功例の勉強会を行い、政省令を作る際の参考となるようにする必要があるという意見が出た。
通勤通学の問題について、視覚障害児の通学距離が長くなっていることに対する理解が少なく、そのために支援が行き届いてないのではとの意見があった。また、学校に通うためのスキルは訓練が可能だが、実習等の不定期の移動については訓練が不可能であり、そうした課題に対応するための仕組みが必要であるとの意見もあった。同じ学校に通うのでも居住自治体による差異があることも報告され、親へかかる負担も含めて真剣に考える必要があることが確認された。
ガイドヘルパーの質・量の問題について、技術に見合う報酬単価が支払われていない現状が報告され、そのことにより資質の向上・人数の増加が妨げられているのではないかとの提起がなされた。また、ガイドヘルパーに対する研修体制が整っておらず、今後国の事業として展開し、地域格差を埋めていく必要があるとされた。
 

最後に、視覚障害児・者の移動支援シンポジウム実行委員会代表である坂本洋一により閉会挨拶がなされた。その中で、今回のシンポジウムが視覚障害児・者の生活をどう支援していくかのきっかけとしていきたい、と述べた。