「視覚障害児・者の移動支援における権利保障のあり方について〜視覚障害児・者の移動支援に対する考え方と今後の方向性〜」シンポジウム実施報告

去る9月4日(土)、慶應義塾大学日吉キャンパス内協生館 藤原洋記念ホールにおいて、「視覚障害児・者の移動支援における権利保障のあり方について〜視覚障害児・者の移動支援に対する考え方と今後の方向性〜」シンポジウムが開催されました。

当日は晴天に恵まれ、約130名の参加を得て、障害児・者の移動支援における権利保障のあり方について学びを深め、パネルディスカッションでは活発な意見交換も行われ、盛会のうちに幕を閉じました。

【基調講演1】  

「障害者制度改革の方向性」
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課課長補佐君島淳二氏

 障害者権利条約の締結が現実味を帯びてきているが現状では国内法の整備が不十分であるため、障がい者制度改革推進会議が設置され鋭意議論を行って、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向」(第一次意見)が発表されたことが述べられた。また、障害者権利条約の締結にはこうした国内法整備も大事だが、一番大事なのは市民の意識だとし、官だけでなく産・学、そして市民の支援が重要だとして、その支援の下やるべきことをやって行きたいと述べた。

【基調講演2】  
「国土交通省におけるバリアフリー施策の現状と課題」
国土交通省総合政策局村上強志氏 

現在、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)」が施行されており、今後は実生活のために重点整備地区を定めるなど面的な整備を行う必要があること、地方におけるバリアフリーの促進がキーになっていること、ソフト面の取り組みとして公共交通事業者等の教育訓練の充実や障害者に対するバリアフリー情報の提供が重要であることなどが述べられた。2011 年はバリアフリー施策の節目であり、障害当事者や施設管理者などの意見を伺いながら、よりよい施策を作りたいと述べた。

【基調講演3】  

「視覚障害児・者の移動支援の個別給付化に係る調査研究事業報告」
和洋女子大学教授坂本洋一氏

 調査事業は、視覚障害児・者の移動支援の個別給付化を目的として行われ、そこからさまざまな課題が浮き彫りとなり、その結果をもとに政策提言を行ったとして、この結果を自治体の移動支援の状況、報酬単価・利用料の状況、提供量・利用量の状況、提供場面・利用場面の状況、養成研修の状況等について検討整理したことが報告された。そして、これからは視覚障害児・者に対する移動支援の個別給付化というサービス体系の整備だけでなく、質の高い移動支援従事者の養成の課題も考えていき、さらに、視覚障害児・者に対するガイドヘルプとしては、単に移動支援ということだけでなく、同行して視覚障害児・者の目的をどう達成するかという幅広い支援としてとらえる必要があると述べた。

【パネルディスカッション】
「視覚障害児・者の移動支援サービスの今後について」

コーディネーター
慶應義塾大学教授中野泰志氏

パネリスト
社会福祉法人岐阜アソシア棚橋公郎氏
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課障害福祉専門官高木憲司氏
社会福祉法人日本盲人会連合鈴木孝幸氏
和洋女子大学教授坂本洋一氏

パネリスト講演1
社会福祉法人岐阜アソシア棚橋公郎氏 「移動支援事業の経過」

 移動支援事業については、利用時間・身体介護の有無・市町村への請求・ガイドヘルパーへの報酬・粗利益・利用者負担などの現状、岐阜県内における市町村ごとの請求単価のばらつき、利用者の同サービスに対する負担額の地域差、書類を墨字・点字など用意する事などによる経費増、独自の研修制度の実施などが報告された。また、視覚障害児・者に対するガイドヘルプが個別給付化される場合に期待することとしては、施設入所者の利用、移動支援事業において車利用、通勤通学などの利用、通院などの利用、生活のパターンにあわせた利用、グループ支援のありかた、ガイドヘルパーの専門的研修及び資格の確立、またそれに因るガイドヘルパーの待遇の改善といった項目が挙げられた。

パネリスト講演2
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課障害福祉専門官高木憲司氏
「視覚障害児・者の移動支援の現状等について」

 現行の移動支援事業は、障害者自立支援法に基づく地域生活支援事業であり、社会生活上必要不可欠な外出及び余暇活動等の社会参加のための外出の際の移動を支援するものであるとし、厚生労働省によると、移動支援事業実施市町村数は平成17 年から比べると伸びており、満足度については58.9%が満足しており、不満足の理由としては「サービス内容が制限」「サービス量に不満」などが多かったと報告された。移動支援については現在障がい者制度改革推進会議において議論されており、現在の自立支援法の中で早急に対応するべき当面の課題や、「障がい者総合福祉法(仮称)」における論点などが話し合われていることが述べられた。
パネリスト講演3
社会福祉法人日本盲人会連合鈴木孝幸氏 「当事者からみた課題」
 日本盲人会連合として、移動支援に関し全国統一のサービスが行われるべきだとして、その中で当事者の立場から、視覚障害者自身、事業所・ガイドヘルパー、行政(市町村)、国に4つの点の課題が述べられた。視覚障害者自身の問題としては、制度理解の不足・利用者が少ないことなどが挙げられ、事業所・ガイドヘルパーの問題としては、ガイドヘルパーの質的・量的不足が挙げられ、行政(市町村)の問題として、サービス支給量・形態の制限と地域差が挙げられ、国の問題として、通勤通学時・病院内・施設内でのガイドヘルプの利用やヘルパーの自家用車での移動ができないことが挙げられた。
その後、ディスカッションが行われた。
 ディスカッションでは、ガイドヘルパー技術の研修について国・行政の枠組みでの研修制度が量的に不足していること、国際的権利保障のガイドの批准について国内法の整備として障がい者制度改革推進会議の議論を踏まえ平成25年8月に総合福祉法の実施を予定していること、通勤・通学目的での利用について現在の移動支援サービスでは対応していないため今後視覚障害児・者に対するガイドヘルプをどのような制度にしていくのかという議論が必要であること、移動支援の内容における移動先での代筆・代読などさまざまな情報の権利保障について市町村に基準が異なっていること、心のバリアフリーについて白杖の利用は、障害者と健常者相互の理解と信頼の上に成り立っているものであるということ、視覚障害児の権利保障とについて早期訓練の開始や障害児扶養者支援の視点が重要であることなどが、当事者の方も含めた活発な議論の中発言され、その後日本盲人会連合会長 笹川吉彦氏より閉会の挨拶を賜り、移動支援の問題、権利保障の問題の解決に向けての当事者・事業者・行政の皆様のご支援をお願いし、幕を閉じた。